ザンクロウ

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 迷宮都市エリオン、その地下に際限なく広がる大規模な地下空間――大迷宮。  その起源は、一説によればまだ神々が世の覇権を争い現世で戦いを繰り広げていた代理戦争時代から存在するとも言われ、迷宮都市エリオンは建国当初から大迷宮と共にあった。  大迷宮には魔物が出現する。  魔物は大迷宮内に生まれ落ち、その数が一定数を超え飽和状態に陥ると、大迷宮から溢れ出るように地下を離れ地上を目指すようになるのだ。地上に現れた魔物は周囲の村や街を襲撃し、時には国をも呑み込もうと大群で押し寄せることもある。  それを未然に防ぐためにエリオンの街は作られた。  エリオンに存在する、冒険者ギルドとも探索者ギルドとも言われる傭兵企業。彼らは大迷宮に潜り、数を増やしすぎた魔物や大迷宮内の生態系(カースト)を脅かしかねない危険(イレギュラー)な魔物の駆除を行う。  これにより大迷宮内の魔物の個体数や生態系のバランスは常に安定し、万が一地上に魔物が溢れ出るという事態に陥ったとしても、その都度冒険者たちがそれを駆逐した。  迷宮都市エリオンとは、つまり大迷宮のためだけに作られた、大迷宮の入り口を塞ぐ蓋のような役割を持った街だった。  そんな死線が日常化する空間に身を晒されているためだろうか――この街には強者が溢れている。    中でもこの街において圧倒的な力を持つのが冒険者たちだ。  日夜邪悪な魔物が巣食う大迷宮へと挑み、時に想像もつかないような財宝を持ち帰ってくることもある彼ら。  一攫千金も夢ではない職業なため、その人気は筆舌に尽くし難く、初等教育施設に通う子どもたちの将来の夢は口を揃えたように『迷宮都市のハンター!』なんていう世の中だ。  まあ、成長していくにつれハンター稼業の苛烈さや魔物の話の通じなさを学んでいくので結局のところ統計的に人気がある職業は安定性に定評のある各種役人あたりだろうが。
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