59人が本棚に入れています
本棚に追加
生まれた時から何もかも異質だった。
両親とは毛ほども似つかない灰を被ったように汚らしい白色の髪。
不自然に変色した金色の瞳はその身に宿す膨大な魔力によって引き起こされる一種の病のようなもの。
平凡だった彼の母親は、彼の強大な魔力の力にその身が耐えきれず、産み落とした瞬間に息を引き取った。
内包する魔力のみで母親を殺してしまった罪深き子ども。大都市では《神童》と言われるほどの魔法使いの素質があろうとも、ろくな知識もない辺境のド田舎ではそれはただの村を脅かす《忌み子》に過ぎず。
そんな、生まれる場所を間違えたとしか言わざるを得ない悲しき境遇の少年――ザンクロウ。
未来、迷宮都市と言われる街で暴力の限りを尽くす彼の性根は最終的には歪みに歪み切れていたけれど、しかし何も幼少の頃からザンクロウの心は歪んでいたわけではない。
どういうわけか、彼には己が未だ違う自分であった頃の記憶――所謂『前世の記憶』というものがあった。
はじめは夢か何かと自分の妄想に戦々恐々としていた彼だったが、一向に覚めない夢を現実として受け入れた頃には、このファンタジーな世界を存分に楽しみたいという欲求が生まれていた。
そう――まずは身を守る技術が必要だと、特に知識も技術もいらない初歩的な魔法を習いだし、その汎用性の高さに魅いられただひたすら魔法の訓練を続けた。
バレット。そう名付けられた魔法はそのままずばり圧縮した魔力を打ち出すだけの魔法の素養がない者でも扱える敷居の低い魔法である。だからこそ何の設備もない農村でも充分な訓練を続けられた訳だが。
はじめは子供のテレフォンパンチにも劣る威力だったそれが日を重ねるごとに威力を増し、数ヵ月もすれば村付近に現れるはぐれのゴブリンを撲殺出来る程度の威力にはなった。
何事も極まれば一つの芸となる。それと同じように本来どう頑張っても牽制程度の威力にしかならないバレットの魔法は、当時のザンクロウの唯一の武器となったのだ。
無論、極めたわけではない。ゴブリンなど雑魚の代名詞、一匹殺した程度では、生温い。
来る日も来る日もバレットを繰り返し行使し、詠唱を完了した魔弾を待機させる遅延発動や複数の魔法を同時に行使する多重発動の技術を得て、オークの頭を一撃で吹き飛ばす事も可能になった頃。彼は気付いたのだ。周囲から向けられる視線に。
最初のコメントを投稿しよう!