暴君に友はいない

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 しかし、だからと言って全てが順風満帆という訳ではなく、時には泥水を啜り、盗賊紛いの略奪で日々の糧を得て、しばらくそんな生活を続けて指名手配までされる事になった。  ――悪童(モンスターチャイルド)。  1500万ゴールドとその歳にして不釣り合いな高額の懸賞金をかけられた彼は童子の姿をした悪魔だと各所で話の種となっていた。  そうして、国お抱えの騎士団やら闇ギルドと、懸賞金目当てに派遣された刺客たちと連日連夜死闘を繰り広げ、時には逃げたりもして、日々の糧を得るため逃走の傍らで細々と略奪を繰り返す。  日々を追うごとに懸賞金は上がり続け、ついに自分の首に掛けられた金額が2000万ゴールドに届く目前――ザンクロウは迷宮都市エリオンへと逃げ延びたのだ。 ☆☆☆  迷宮都市エリオンは《中立》の名のもと、極めて特別な自治権を所有している。そのため他国からの影響力が少なく、ザンクロウのような人には言えない『訳あり』な事情を抱えた人間たちが身を隠すにはうってつけの場所であったのだ。  しかし、そう言った理由でこの街に踏み入ったはいいものの、それで犯罪者たちが街中を荒らそうものならすぐにこの街を愛する冒険者や自警団、挙句にこういう土地柄ゆえ異常にケンカ慣れしたそこらの人畜無害そうなおっさんやおばさんにまでボコボコにされてしまうので、下手な悪さもこれまで以上に出来ないのであるが。  逆に言えば、表立って悪さなどせず大人しくしていれば彼らの身の安全はそこそこ保証されるのである。しかし、自治権を認められ「力こそ全て」という言い分がバカみたいに通ってしまうこんなところでも、完全に他国からの影響が全くないというわけではない。    特にザンクロウの場合は、道を歩けば後ろ指をさされ、買い物をしようとするたびに一悶着。あげくは因縁の相手を自称する複数の人物から喧嘩を売られては返り討ちに、わざわざエリオンまで足を運ばせた騎士団と街中で激闘を繰り返し、身元が知れているぶん襲撃の頻度は各国を渡り歩いた時以上だった。    幸いと言えば良いのか、そんな殺生沙汰もこの街では日常茶飯事で、面白がられる事はあれど、ザンクロウの悪名がそれ以上下がる事はなかった。  それでも彼は人の波を避けるようにダンジョンへ潜り続け、半ば引きこもりのような生活を繰り返していた。
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