暴君に友はいない

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 そして、今。  ザンクロウは、またしても大迷宮で快挙を成し遂げようとしている。  場所は大迷宮の第78階層――その、際奥。フロアボスルームと呼ばれる広大な空間。  そこで、一人の人間と大蛇が息もつかせぬ死闘を繰り広げている。  否、死闘というにはそれはあまりに一方的な暴力。  なにせ、人間――ザンクロウには大した外傷がある風にも見えないというのに、その人間の数十倍はあろうかという巨躯を持つ大蛇は片目を潰され、尾を切られ、舌は引き抜かれるという凄惨な有様だったからだ。  今もザンクロウの人差し指から機関銃のように連続して放たれた『魔弾』の弾幕が、本来なら鉄以上の硬度を誇るはずの大蛇の鱗を紙のように突き破りその奥にある分厚い肉を容赦なく穿つ。  大蛇のほうはまさに満身創痍。  未だ人類の手が届かぬ深層。そこにたった一人で現れ第78階層の主をここまで追い詰めた人間に、大蛇は最後の力を振り絞って赤く輝く片目を向け――耳を劈くような雄叫びを上げる。  途端、ザンクロウの体が指先から石のように固まっていく。それは急速な広がりを見せていて、あと数秒もしないうちに彼の体を石像へと変化させる死の呪いだった。  そんな有様を見て彼は、 「……生き物を石化する能力ってのも初めてみたが」  それから、ぐっと体に力を込め、体内の魔力を迸らせる。  すると、石になっていた指先から光が弾け、次の瞬間には指を覆っていた石はパラパラと剥がれ落ちていく。ザンクロウが石化する様子は、もはやない。  逆に、 「――呪術の類なんだろうが、知ってるか? 呪術ってーのは、術者と対象に力の差がありすぎると、その呪いの効果は術者に跳ね返っちまうんだぜ?」  今度は、大蛇の途切れた尾の先から石化が始まっている。  ギョッとする大蛇の様子を見て、ザンクロウは頬を歪な形に緩ませる。 「じゃあな、爬虫類。雑魚にしちゃあ、てめぇ、よく頑張ったぜぇ?」  石化はもう首の辺りまで侵食している。最後に大蛇はザンクロウに憎悪が渦巻く瞳を向け、そして激昂するように一つ吠えた後――もはや動くことはない石像となって活動を停止した。
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