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☆ ☆ ☆
第78階層、難なくクリア。
今回の目的を達成したザンクロウは、フロアの片隅にある宝物庫から用途不明の様々な武器や物資を発見し、それらを無尽蔵に物を別空間へ収納できるという同じく大迷宮から出土した不思議な鞄に根こそぎ詰め込んだ後、地上に帰還するために鞄から帰還結晶と呼ばれる石を取り出しそれをさっさと叩き割った。
すると一瞬の浮遊感の後、視界は薄暗い陰湿な洞窟の中から一変、太陽の光が差し込む明るい地上へと切り替わる。
数ヶ月ぶりに浴びる太陽の光に彼は心地良さげに目を細めるが、同時、瞬時に感じ取る様々な視線に今度は眉を顰めた。
ザンクロウが今いる場所は大迷宮の入り口。その周囲は大迷宮への入場を管理するギルド職員や、大迷宮探索者を目当てに店を構える商人たち、そしてまさに今から大迷宮に潜らんとする探索者、その他諸々、たくさんの人で溢れ返っている。
それらの大多数の人間が、皆一様にザンクロウへ視線を向けていたのだ。
それは好奇だったり恐怖だったり、怒りだったり憎悪だったり、妬みだったり恨みだったり。
押し寄せる人の波に忙殺されるギルド職員が時を忘れたように仕事を放棄し、それを見て先を急いでいる冒険者がイラついたようにその原因である彼を見て顔を青白く変色させ、客引きで声を張り上げていた商人が、大迷宮で怪我をして泣き叫んでいた冒険者が、ぴたりと水を打ったように静かになる。
帰還してからまだ数秒と経っていない。それでこの有様である。この有様なのだ。
――災厄のザンクロウ。
かつては悪童と呼ばれ、或いは殲滅、歩く殺戮兵器、人間砲台、暴虐の悪魔、魔人などと数々の渾名でエリオンの街に名を轟かせる悪名高き犯罪者。
この街にいて彼の名を知らぬものはそういない。そして彼に戦いを挑む無謀な存在も。いるとすれば街に来て間も無い世間知らずな新参者か、それとも自分の力量を図り間違えたただの愚者か。
曲者揃い、強者揃いのこの街といえど、彼のような度を越した化物に対抗できる者など、ましてや逆らう者などそうおらず。たいていは周囲の者たちのような反応をする。
地上に戻ってきたことを少しばかり後悔しながら、ザンクロウは周囲の視線をその身に集約しながら移動を開始した。
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