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「ちょっと薫ぅー?」
下から壁を通過して俺の母さんが、いつもみたいに、ねだる様に俺の名前を呼ぶ。
大抵母さんがこんな呼び方をするときは、俺に何か頼みごとをする予兆であったりする。
どうせ、「料理手伝ってー」やら、「買い物行ってきてー」とかだろう。
「悪いんだけどぉー、コンビニまで買い物行ってきてくれるぅ?」
予想通り。
二階にある自分の部屋でマンガを読んでいた俺は、読んでいるページまでを下にして、しおり代わりに机に置く。
こうゆう置き方をするとページに跡がついてイヤだが、古いマンガだし、所々シミもついていて汚い本なので全く気にしない。
「わーったよっー。」
上下ジャージ姿のダサイ格好の俺は、少し長めの髪の毛を耳に掛け、階段を降りる。
階段を降りてすぐにリビングがあり、そのリビングに設置されている無駄にデカイ椅子に、髪の毛を一つに束ねた母さんが座っていた。
母さんは33歳で、俺を18歳の時に産んだ。
当時は少し荒れていたらしいが、今ではすっかり大人しくなった方だと言う。
だが時々、近所で激しい口論を繰り広げているのは紛れもない母さんで、家に帰ってくると何故か全身ボロボロにになっている。
本人曰く、毎回近所のオバサマ達が影でヒソヒソ母さんの悪口を言っていて、それから口論が始まるのだと言う。
相手が悪いと思うが、真っ先に手を出すのは毎回母さんらしい。
帰ってきた後に一人でぶつぶつと酒をガッツリ飲みながら、「子供を産むのは大人になってからじゃないとイケないの?」とか「シングルマザーの何が悪いのよ!」などと呪文の様に、これも毎回唱えている。
近所のオバサマ達に陰口叩かれるのは、そうゆう所だと思うが、俺は母さんが間違ってはいないと思っている。
18歳の時に俺を産んで、当時20も年の離れた俺の父親は逃げるように去ったらしい。
それから俺を女手一つで育ててくれた母さんは、父親に逃げられた怒りや悲しみを愚痴る事も無く、必死に働いて、決して裕福では無いが、俺をここまで育ててくれた。
―――そんな俺も明日から高校生。
新しい環境に飛び込むのは好きだし、そして何よりバイトが出来る!
母さんに少しでも楽をさせてあげたいのだ。
そんな良い性格をした俺は、当然母さんの頼みごとを断れる訳も無い。
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