すべてのはじまり

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築40年の古い5階建てのアパートの3階が俺の家。 毎月の家賃が2万5000円と格安であったりもする。 俺と母さんの二人だけで住むには十分な広さがあり、別に汚いという訳でも無い。 もちろんエレベーターなんて凄い物は無くて、玄関のすぐ横には螺旋階段が設置されている。 その螺旋階段を下り、電灯が1つもない暗い道路に出る。 腕時計に目を落とすと、現在の時刻は夕方の6時30分を過ぎていた。 4月はまだ暗い。 明日入学式を控えていた俺はそんな事を考える。 出会いの4月。 俺の一番大好きな時期――――― そんな事を考えているうちに、近所のコンビニに着いていたみたいだ。 街灯の無い暗い道路で、唯一と言っても良いほどの明るさを放っていた。 「いらっしゃいませー」の決まり文句を聞き流し、店内の様子を伺ってみる。 立ち読みをしている中年の小太りの男性と、おそらくバイトであろう若い女の子の店員しかおらず、とても静まり返っていた。 その小太りの男性は手に取った雑誌を買いたいみたいだが、おろおろとしていた。 その雑誌というのはおそらくイヤらしい本で、店員さんが若い女の子だから、買えるに買えない。 そんなところか。 可愛そうに。 横目にそんな感情を抱きつつ、目的の場所へと足を運ぶ。 我が家の夕飯は7時と決まっているので、おそらく母さんが頼んだお茶は夕飯の飲み物で、ロールケーキは食後のデザートって感じかな。 何回も来ているコンビニで、お茶とロールケーキの場所はすぐに分かるので、その2つを手に取った俺は足早にカウンターに向かう。 「二点で260円になります。」 愛想笑いを浮かべた店員さんは、手際よく俺の出した小銭をすくいあげ、レジを手慣れた手つきで操作する。 お釣りの無いように出した俺は、レシートが出てくる間にあのおじさんの方をチラッと見てみる。 おじさんはチラチラとカウンターの方を見ているが、男の店員が出てくる気配が無いのを悲しそうにしていた。 うっすら目に涙を浮かべているような気もする。 そんなに買いたいのか・・・。 温かいレシートを受け取った俺は偶然におじさんと目が合ってしまった。 今にも泣きそうなおじさんを励まそうと、口パクで「ガンバれ」と口ずさむと、おじさんはゆっくりと力強く頷いた。
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