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薄暗い空間の中は重低音で満たされてる。
「和哉君。こんばんわ~、みんな楽しんでるよ~」
「ありがとう、みんなが楽しんでくれてるなら企画した意味があったよ」
「あっ、和哉~。一緒に飲もうよ」
「それじゃ、挨拶周りが終わったら少しだけ顔を出すから待っててくれるかな?」
「カズヤさん、イベントは大成功です! 超マジで最高にみんなアゲアゲっす」
「それは良かった。君たちのおかげだよ、でもイベント終了まで気を抜かないでね」
次々に話しかけてくれる彼女、彼らに笑顔で対応しながら分厚い扉を開いて中に入る。
ブルリと全身が震えるような重低音がフロアには響き渡っていた。
「ふむ……お客さんの盛り上がりは……まずまずってところかな?」
重く、まるで重力のような音を背中に、VIPルームへと続く階段を登る。
ホール全体を見渡せる窓際に立つと見下ろしたそこは中々にぎわっていた。
「この入りならホールのレンタル料とその他+人件費を十分にまかなえそうだね」
ニンマリと笑って窓際から離れてソファに座る。
ドカリと座ったつもりだったが、フワリと優しく体重を受け止めてくれた。
そしてテーブルの上にあらかじめ置かれていたミネラルウォーターを一口飲み干す。
冷たい水が喉から胃へと流れこむのを感じ、疲労感が適度に出て行く。
そして悪酔いしないために濃縮ウコンの粉末を口の中に放り込むとそれをペットボトル一本分を使って飲み込む。
「ふ~、マズイ~」
決して美味くは無いけれど、重要な仕事をするためには必要な道具なのだ。
ソファから立ち上がり、壁に取り付けられている鏡の前に立つ。
「さて最終確認を始めようか」
誰に言うでもなく一人つぶやく。
笑顔のチェック……良し。
服装の乱れ……良し。
髪型は……良し。
そして最後にもう一度笑顔……良し!
「よし、出陣開始だ!」
軽快に階段を降りて扉を開き、音の洪水の中へと躍り出た。
馴れた様子でホール内を歩き、顔見知りには片っ端から挨拶をしていく。
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