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 そのそばに立った壮年の男性が耳に当てた携帯電話に叫んでいる。  何かあったのだろうか?  気になった僕は耳を澄ます。  十メートル以上は離れた電話口の声なんて普通は聴こえないだろうが、僕はサンタ長。そのくらいのことはできて当然なのだ。  性能の無駄づかいな気がしてならない。  しばらく盗み聞きしてから僕は男性に近づく。机の縁から垂らすように貼られた『ケーキ1ホール3000円』というカラフルな手書きポップにちらりと目をやってから声をかけた。 「どうしたんですか?」  僕の格好を見て、その男性は一瞬電撃が走ったように身を強張らせると、状況を話してくれた。  店長だという男性いわく、今日ここでサンタの格好をして売り子をしてくれるバイトが事故にあって来られなくなったらしい(大きな怪我はないようだ)。  だから代わりを探そうと思うが、しかしもうすぐその子のシフトの時間だった。とりあえず私が代わりの売り子を探してるあいだ、君が売り子をしてくれないか? と依頼までされた。  もちろん、給料はいただけるそうだ。電話で聴いていたときにした予想と同じ展開であって僕は答える。 「引き受けましょう」  僕のその返事に嬉々として、簡単な説明をしてから店長はさっさと店内に戻っていった。
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