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「だね、そこはまあよかったんだけど……言いづらいことがひとつあるんだ」
「なんですか?」
「そのね、衣装、彼が前々日に持っていってたみたいでね、そして彼は今日、来られなくなったじゃない?」
「まさか、衣装足りないとか……?」
「……いや、あるにはあるんだけど、その――」店長の言葉をさえぎるように、どたどたどたどた、と遠ざかっていく足音。そしてしばしの間をあけて。
「なんですかこれー!?」と絶叫がこだまする。ふたたび足音。こちらに戻ってきたようだ。
「は、はは」店長の乾いた笑い。
「てかなんですかこれ、なんでこんなのがあるんですか。たしかにサンタ服はサンタ服だけど……うん、丈短いよ!?」
「いやあ、ふざけて用意していたものなんだけど、とりあえずそれしかないから、お願い」
「というか、外のあの人は私と入れ替わりなら、一着あまるじゃないですか! そっちを着ますよ!」
「あー、あれ自前なんだよね」
「自前って?」
「最初からあの格好だったの。だからスカウトしたんじゃないか」
「なにそれ!? 何者?」
「さあ?」
「『さあ』って!」
「ああ、もう時間がないからそれでお願いしますね」
「もう、わかりましたよ……」
今度は、とぼとぼと力のない歩きかたで遠ざかっていった。
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