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七月某日のこと。とある都会のオープンカフェのテラス席で向かい合って席に腰かける男がふたり。
彼らはそれぞれ、呼んで呼ばれてここにいた。
汗をかいたふたつのグラスのなかで氷が奏でる音だけが唯一納涼を演出してはいたが、街の雑踏によりその音はたやすくかき消えてしまっていた。
「暑いね」
あるいはいま、そうつぶやいた彼にならかすかな氷の音も聴こえたろうが、ささやかな納涼など意味をなさないだろう。なぜなら――
「当たり前だろ! なんで仕事着!?」
――そう、彼らはその衣装を身にまとっていた。情熱の赤と清廉な白のコントラストに、まるで涼やかさはない。この季節に中指を立てているかのようだった。
「休日に外出する場合は制服着用のうえ、家人にいつごろに帰宅する旨かを伝えたあと、できるだけ速やかに用事をこなすこと」
「どこのお嬢様学校の校則だ!! てかそんなルールあったのか!?」
「ないよ」
「ないのかよ! じゃあそのルールなんなんだ!?」
「僕ルールだ」
「自分ルールにオレを巻き込まないでくれ!」
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