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死神の記憶-traumatic experience-
中米南部、バルベルデ共和国――高級住宅街の一角。日本人の女の子が勉学に励んでいるのか、勉強机に向かっていた。
「詩織、手を洗ってらっしゃい、おやつ出来たわよ~」
「は~い」
詩織と呼ばれた娘は10歳に満たない位だろうか、日本人にしては明るい色のおさげ髪が可愛らしくも上品な雰囲気の少女だ。彼女は自分の部屋を出ると、洗面所で手を洗った詩織はリビングへ向う。
エプロンをかけて長い髪を一つ結びにした日本人女性がスコーンの入った皿を持ってダイニングからリビングへ入ってくると、脇から突如現れた日本人の男性が皿からスコーンをつまみ食いする。
「もう!あなたったら、詩織の前でお行儀の悪い事しないで!」
夫はからかうように笑いながらスコーンを呑込むと、インターホンが鳴る。
「悪い。でも美味しいよ」
「解ったから手を洗って来て。玄関には私が行くから……」
妻はそう言って皿をリビングのテーブルに置くと、玄関へ向った。
「詩織は手、洗ったか?」
「うん」
父親が洗面所へ向かおうとすると、玄関から母親の悲鳴が聞こえ、父親は慌ててリビングに戻って詩織を抱えて、詩織を部屋のベッドの下へ押込む。
「ここでジッとしてなさい!いいか?」
母親の悲鳴は続いており、詩織は不安そうな表情で頷く。父親は大きく深呼吸すると、低い声で詩織に告げる。
「ここもすぐに見付かる」
詩織は父親の言葉に声を殺して泣き始める。
「詩織、ここから大事な事だ。見付かったら大声を上げて暴れるんだ。解ったか?」
詩織は大きく頷いた。
「お父さんが絶対この家から連出させたりしないから!いいね?来るぞ、足音が聞こえる!」
父親はそう言って足音も無く部屋から出て行く。
「お父さん!?イヤぁ……そばに!」
詩織が父親に付いて行こうとするが、詩織にとって聞慣れない足音はかなり近付いて来ていた。
まもなくドアが開き、2~3人の男物の靴が部屋に入って来る。そして、スペイン語の会話がベッドのすぐ上から聞こえてきた。
詩織は必死に息を殺して2人の男達の動きを観察する。2人は、1分もせずに会話を終え、部屋を出て行く。
「……お父さん?」
詩織が小声で父を呼びながらベッドの下から這出そうとすると、突如足を掴まれてベッドから引張り出され、絶叫を上げる。
男が詩織を背後から軽々と抱えると、足をバタつかせ、壁に掛かっていた鏡が落ちて割れる。
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