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「なんのことだか、わかりませんなー」
白々しく道子が誤魔化す、道子がもしもの時のために靴に一万円を隠していることは知っている。なんでも、男に振られたときのやけ食いだったり、帰りの電車賃だったりするのだが、男はお金持ってないのーとすり寄る守銭奴で、私が男だったら払えないノーと言いたい。ノー、いいえである。お断りしてしまう、わかりにくいボケだった。つーことで一曲、道子さんの失恋話を下敷きに熱唱すると道子さんは折れた。よし勝った。
「むふふふ、ご馳走になりますなぁー」
「これ、つけだからね」
と守銭奴、道子はチビチビと烏龍茶を飲んで、私はドーナツを食べる。その姿を見ていた道子がボソリと言った。
「なんかリスみたい、パンパンに膨らませてるし」
「んまー」
聞こえないふりをして、お腹いっぱいドーナツを食べた。自分で出して買うのは嫌だけれど、誰かのお金で買うってちょっとうれしい。
「道子はさー、弱肉強食ってなんだと思う?」
自転車の車輪をキーコキーコさせながら言う。思考が水蒸気のようにもくもく膨らんできたから思わず口に出した。
「篠崎にはもっとも無縁な言葉だと思うなぁでも、私から言わせてもらうなら弱肉強食はあれだね、恋、だね」
「恋ですか」
「恋ですな。かっこいい男と付き合えるなら勝ち組、付き合えないなら負け組でしょ」
「私からしたら、道子は肉食獣だよね、男を食い物にしてるよね。まさしく弱肉強食」
道子は肉食獣、男はか弱い草食獣だと思って笑うと道子がムギューとしてきた。お腹を摘まむんじゃありませんよ。いや、摘まむ肉なんてないんだけども、自転車をキーコキーコと回すのがちょっぴりふらいていると、少しばかり天候が悪くなった。
「雨、降るかも……」
「篠崎がドーナツモフモフしてるからでしょ」
つまりは寄り道したからか、確かにそうかもしれない、でも、ドーナツモフモフってちょっと可愛いという、私の心境とは裏腹に天候はどんどん悪くなっていく。無駄話もそこそこに早く帰ろうと思っているとどこからともなく、シャンッ、シャンッ、シャンッと音が鳴り響く。道子が驚いたようにしがみついてきた、大きなメロンが背中に押し付けられてるぅとふざけることもできない。怖がり道子めと冗談も言えない、同じくらい私もビビりなのだから
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