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気がついた時には、隣に真っ白な馬が走っていた。シャンッシャンッシャンッという鈴の音はその馬に跨がってる奴が鳴り響かせて、その音と共に、とーりゃんせ、とーりゃんせー、ここはどーこの細道じゃーこーこは天神様の細道じゃーちーっと通してくりゃりゃんせー、ご用のない者にゃ通しゃせぬーと、童謡のとうりゃんせが聞こえてくる。道子が軽く悲鳴を上げた。 私もそれにつられてそちらを振り向くと、馬に跨がってている鎧武者が鈴のついた錫杖をシャンシャンと鳴らして、私もヒッと悲鳴を上げそうになった。首、首がないのだ。その断面から水蒸気のようにもくもくと煙が立ち込めて、そこからとうりゃんせが聞こえてくる。私も悲鳴を上げそうになったが自転車を倒すまいと必死にペダルを漕いだ。
めちゃくちゃ怖い、さっきまで適当な無駄話をしていただけなのにどうしてこんなことをになるんだと必死に自転車を漕ぐ。そうすると馬に乗った鎧武者もシャンシャンと鈴を鳴らして、とうりゃんせを歌う。競輪みたいだった。ただし、相手は馬だけれど、道子もギュッとしがみついてくる。
「とーりゃんせ!! とーりゃんせー!! こーこはどーこの細道じゃー」
やけくそ気味に歌う。シャンシャンという鈴の音がやかましい。というか、私もとうりゃんせってよく知らない。
「この子、七つのお祝いにお札を納めに参りますー、行きはよいよい、帰りは怖い、怖いながらもとーりゃんせー、とーりゃんせー」
それにつられて道子も歌う。大声で歌い上げた。いつまでこんなことしていたのだろうと思うと天候は回復し、馬に乗った鎧武者もどこかに行ってしまった。
「あー、びっくりした」
私が言いながら自転車のハンドルに身体を預ける。道子も歌いすぎて喉をガラガラにさせながら、
「篠崎がおかしな歌ばかり歌うからつられてやってきたんじゃない? あの鎧武者、篠崎とそっくりだった」
「んだとぉー、私にはちゃんと首あるし」
私の歌にはそんな力ないわいと抗議する。
「いやいや、そこじゃなくてっまぁいいや夢じゃなかったんだよね」
「だね。もう一曲、いっとく?」
道子にアハハハと笑って、
「やめろ」
真顔で返され急いで帰った。やっぱり道子は肉食獣だと思います。
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