倉敷の写真

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相手は私に対して「好きだ」と口に出してもいないのです。 もしそういうやり取りがあった上で断られたとすれば、相手も覚悟が できている故、そこまで傷つくことはないかもしれませんが、この時 の私の行為は、氷水をぶっかけるようなものです。 大層、ご気分を害されたでしょう。 それ以来、あの方は店に来なくなりました。 私の方はと言いますと、 「もし、怒鳴り込んできたらどうしよう」とか、 「必死で懇願されたら断りきれるだろうか」とか、 なんともまあ自己中心的な妄想をして勝手に相手を恐れていまして。 しかも一ヶ月すればそんな怖気も途端に消えてしまったのですから、 ああ馬鹿な娘だよと自分でもため息がでますよ。 それから更に半年が経ちまして、馴染みのお客さんからあの方が死ん だというお話を伺いました。 何でも、最近は山の方へ行って花や虫の写真を撮っていたらしいので すが、雨の日にぬかるみに足を滑らせて石に頭を打って、そのまま。
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