STORY 1

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外はすでに夕暮れだった。 夕日が街を赤く染める。 気候は冬寄りの秋と言う感じだ。 「なんでだよ!?なんで叩いちゃいけねえんだよ!?」 「当たり前でしょ!?UFOキャッチャーですよコレ!」 ゲームセンターの店内。 UFOキャッチャーの前で、若い男と店員の言い合いが響き渡っている。 店員の風貌は説明するほどでもない。 20代後半の顔立ちで、服装もそこいらのゲームセンターの店員がよく着る制服だ。 「なんでだよ!?昨日は叩いても何も言われなかったぞ!?」 「い、いや・・・!!それは・・・!!」 説明すべき風貌なのは若い男の方である。 ミルクティー色の髪の毛、えり足は肩に寝るように乗るぐらいの長さ。 前髪は目にかかるぐらい長い。 鼻、唇の下、左耳、にはピアスがつけてある。 そして、背中にはケースに入ったギターを背負っていた。 「とにかく叩いてはダメなんです!!ルール違反なんです!!」 「んだよ!!金ねえんだよ!!面倒くせえな・・・!!」 若い男は店員を睨みながらそう言い放って、その場を立ち去った。 「なんなんだ今の奴は・・・」 自動ドアの向こうにある若い男の後ろ姿を眺めながら言う店員。 少しため息をつき、叩かれていたUFOキャッチャーに目をやる。 「・・・ん?ええ!?」 叩かれていた部分と言うのは、ガラスの部分ではなく、ボタンがある台の部分。 その部分が、明らかにヘコんでいたのだ。 「こ、こんなの殴っただけでできんのか!?」 見て、触って、よく調べてみるが、 明らかに手の甲の形でヘコんでいる。 「アイツ、何者・・・!?」 もうすでに姿はない自動ドアの向こうを見ながらつぶやく店員。 その店員の後ろの壁には、一枚のポスターが貼られている。 『豪天町発!アマチュアロックバンド <GEN武>!初のワンマンライブ決定!』 そう書いてある文字の上には、3人の男が写っている。 その3人の中心に写っているのが、 まさに台をヘコました今の若い男であった。
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