薄氷(うすらい)まとう姫君

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「では、好きか?」 「っ!?」 「ちなみに俺は、清香のことが好きだぞ。  愛している」  酒呑童子の言葉に、清香はカァっと頬を赤く染めた。  だが紅唇から否定の言葉は出てこないし、着流しを握りしめた手の力は、さっきよりも強くなっていく。  その様に、酒呑童子は喉の奥で機嫌よく笑った。  初めに惹かれたのは、瞳だった。  全てを吸い込んで逃がさない瞳にとらえられた。  傍に置くようになったら、放っておけなくなった。  あまりにもか弱く儚い清香は、すぐに酒呑童子の意識の大半を占めるようになった。  それから、芯の強さと、そこに隠したもろさを知った。  人から虐げられたせいで人を強く憎んでいて、でも実際はその中にたくさんの恐れを隠していて。  ほぐしてやりたいと、思ったのだ。  鬼である、自分が。  表情も、感情も失ってしまった彼女の笑顔を、  見てみたいと思ったのだ。
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