薄氷(うすらい)まとう姫君

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「それで?」  目の前に座した鬼の頭領の姿に、帝の勅使(ちょくし)は思わず目を見開いた。 「帝とやらの御用件を、伺おうじゃないか」  サラリと流れる髪は雪のような白。  銀の瞳は涼やかで、まるで鍛え上げられた刃のように鋭い。  血のように赤い唇にはうっすらと笑みがたたえられ、それが凄絶な色気を放っている。  背丈は、都人よりは高いが、大男と言うほどではない。  がっしりとした体を淡い色彩の着流しに包んだ姿は均整がとれていて、脇息に片肘をついて座っているだけで絵になっている。 「こんな山奥まで、わざわざ出向いてもらったんだしな」  鬼、と聞いていたから、どんなに醜い化け物が出てくるのかと思っていた。  だがいざ目の前に現れたのは、都でも滅多と会えないような美丈夫だ。  驚くな、という方が無理ではないだろうか。  勅使はゴクリとつばを飲み込むと、のどに力を込めた。
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