薄氷(うすらい)まとう姫君

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「近頃の大江山の鬼達の悪行は、  目に余るとの由。  ……帝が治める都に仇をなすならば、  討伐せよとの仰せだ」 「悪行……ねぇ」  勅使の言葉に酒呑童子は手にした扇を弄びながら目を細める。 「都から貴公子や姫をさらい、  その血肉で夜な夜な宴を開いているっていう、  あれか?」 「そっ……そうだ!」 「それが、俺達の仕業だと?」 「帝の仰せだ」 「……馬鹿馬鹿しい」 「な……っ!!」  思わず勅使は伏せていた顔を跳ね上げる。  対して酒呑童子は深くため息をつくと、軽やかな身のこなしで立ち上がった。 「わざわざ都から勅使が来たというから俺の宮まで上げたというのに……  とんだ期待外れだ」 「貴様……っ!!」 「『調査をし直せ』という伝言を持って、  今すぐ山を下れ。  首をはねることだけはやめてやる」 「黙れ外道っ!!  主上(おかみ)の御言葉(みことば)に対するその振る舞い、  いかに人を外れた身の上であっても許されはせぬぞっ!!」  大和を統べる神を侮辱された勅使は、片膝を立てると腰に佩いた太刀に手をかける。  対する酒呑童子は扇を広げると、その上から冷めた視線を勅使に投げた。  カチリ、と太刀が固い音を立て、室の雰囲気が一気に張り詰める。
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