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「……勅使様、
おやめくださいませ」
だがその緊張は、長くは続かなかった。
ささやくような声が廊からこぼれ、仕切りの几帳の向こうからあでやかな女房装束をまとった姫が姿を現す。
「ここの方々は、そのような蛮行、
なさってはおりませぬ。
帝の御言葉は、全て濡れ衣でございます」
薄青と白を重ねた氷の襲が映える、儚げな美姫だった。
宮中の姫のように顔を隠すこともなく、底の見えない漆黒の瞳でひたと勅使を見据えた姫は、表情のない面(おもて)を向けたまま、感情のない声で言の葉を紡ぐ。
「今上帝には、そのようにお伝えくださいませ」
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