薄氷(うすらい)まとう姫君

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「酒呑様。  失礼とは存じましたが、  茨木(いばらき)様に頼み込み、  隣の局に控えさせていただいておりました」  そんな勅使の前で、姫は平伏したまま話の流れを強引に変えた。  その言葉に酒呑童子は不愉快そうに舌打ちをする。 「茨木童子め……  キヨを遠ざけておけと、あれほど言っておいたのに……」 「酒呑様、言葉が足りなくては、  真(まこと)は伝わりませぬ。  わたくしは、  勅使殿の勘違いで、  酒呑様の悪評が立つことが恐ろしくて、  出て参ったのでございます」 「……勘違い?」  思わず呟く。  その言葉立聞こえたのか、姫が静かに顔を上げた。  まっすぐに足元まで流れる髪と同じ漆黒の瞳が、もう一度勅使をとらえる。 「都人をかどわかし、悪行を働いているのは、  大江山の麓に住まう野党達……  ……人間でございます」  人間、  という言葉を紡いだ瞬間、  感情のない瞳が、  ひときわ冷えたような気がした。 「大江山に住まう鬼の方々は、  滅多なことでは人とは関わりませぬ。  皆様方は、皆様方なりに、  平穏に暮らしていらっしゃるのです」
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