16人が本棚に入れています
本棚に追加
「……清香(きよか)」
「酒呑様、お戯れはおやめくださいませ」
溜め息とともに最愛の后の名を呼べば、その妃からはなぜか文句を言われてしまった。
「わたくしのような下賤の者が、酒呑様の后などと……」
「お前のどこが下賤なんだ」
清香を片腕に抱いたまま廊を進む。
そんな二人に対して、道行く鬼達は進んで道をあけ、首を垂れる。
そこにあるのは純粋な敬意だけで、清香を蔑むようなものなどどこにもない。
「わたくしは……人間です。
鬼では、ない」
この宮で、清香が酒呑童子の后であることを認めていない輩など、どこにもいない。
ただ一人、清香当人だけが、頑なにその事実を否定する。
誰よりも酒呑童子に心を寄せ、また寄せられている当人が。
「人間は、簡単に同族を裏切ります。
そして貴方様を討つためならば、
どんなに汚い手だって取るのです。
貴方様は何もしていないというのに、
ただただ恐ろしいというだけで。
……わたくしの体には、
そんな卑しい人間の血が流れているのです。
麗しい貴方様達、鬼とは違う」
最初のコメントを投稿しよう!