薄氷(うすらい)まとう姫君

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「……清香(きよか)」 「酒呑様、お戯れはおやめくださいませ」  溜め息とともに最愛の后の名を呼べば、その妃からはなぜか文句を言われてしまった。 「わたくしのような下賤の者が、酒呑様の后などと……」 「お前のどこが下賤なんだ」  清香を片腕に抱いたまま廊を進む。  そんな二人に対して、道行く鬼達は進んで道をあけ、首を垂れる。  そこにあるのは純粋な敬意だけで、清香を蔑むようなものなどどこにもない。 「わたくしは……人間です。  鬼では、ない」  この宮で、清香が酒呑童子の后であることを認めていない輩など、どこにもいない。  ただ一人、清香当人だけが、頑なにその事実を否定する。  誰よりも酒呑童子に心を寄せ、また寄せられている当人が。 「人間は、簡単に同族を裏切ります。  そして貴方様を討つためならば、  どんなに汚い手だって取るのです。  貴方様は何もしていないというのに、  ただただ恐ろしいというだけで。  ……わたくしの体には、  そんな卑しい人間の血が流れているのです。  麗しい貴方様達、鬼とは違う」
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