第1章

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翔の手が掴んだのは律の頭だった。律の頭を両手でしっかりと掴み、目を合わせ、少し悲しそうな表情を浮かべながら言う。 「チビ律、それはとてもとても魅力的な提案ではあるんだけれど、そう言うのは好きな相手にすることだ。こんな先輩相手にすることじゃあ無いよ。 それに律にはちゃんと彼氏がいるんだから…」 「そうですね、ごめんなさい。調子に乗っちゃいました。まあでも、チキン先輩は何もしないって知ってるから大丈夫ですよ」 「チキン先輩ってなんや!!」 「危ない橋は渡らない、賭け事しない、恋愛に奥手。チキン先輩です。」 「なんだそれ…まあ僕にも色々あるんだよ。21歳にして色々経験しちゃってるからさ、そう言うのはもうんざりなんだ」 「私もその片鱗を少しは知ってはいますが、まだまだ人生は長いんですよ?もう諦めちゃったんですか?引きこもってばっかりいないでもっと遊びましょうよ!」 「遊ぶって、言い方が悪すぎるだろ。別に諦めちゃったわけじゃ無いんだけれど、ただしばらくお休みを貰いたいんだよ。恋愛休暇ってやつだ。」 「恋愛休暇だと恋愛する為に休暇取ることになりません?じゃあ、そのお休みが終わったら真っ先に私と遊びましょうよ!!!」 少し安心したような顔で言い寄る律の目はキラキラと輝やいていた。 「そんなキラキラした目で僕を見るな、今の彼氏が不満ならさっさと別れて新しい王子様でも探せばいいじゃないか。」 「別に今の彼に飽きちゃってる訳じゃ無いんですけどね…最近あんまり構ってくれないんですよ。」 律は少し悲しそうな顔で俯くと、すぐに笑顔に切り替えて頭をかきながら言った。 「そんな彼でも会えばすっごく優しく抱いてくれるんですけどね」 デレデレだった。少し恥ずかしそうな、幸せそうな笑顔。しかしそんな笑顔から翔が得た印象は「悲しそう」だった。彼女はきっと悲しくても笑顔で、笑顔の奥で泣いているようなそんな女性なのだと感じていた。 「くたばれリア充が!!!」 再び律の頭を今度は拳で挟みこんで万力にかける。グリグリと。抱きしめて頭を撫でたい気持ちを抑えながら。 そうしてダラダラと時間が過ぎ、二人の会話が途切れたのは夜の九時を過ぎたあたりだった。
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