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「チキン先輩が夜の猛獣になるところ、是非見たかったんですけれど。本当ごめんなさい…この埋め合わせは絶対にするので!」
「うん、是非そうしてくれ。さあ早く帰らないと愛しの彼氏くんが泣いちゃうぜ??」
「ありそうで怖いです…それじゃあ、行きますね」
「ああ、気をつけて」
そう言うと律は名残惜しそうにスーパーを後にした。
スーパーから出て自転車で15分、大通りから少し外れた小道の突き当たりにある小さなアパート前の花壇の隅に葉山啓太(はやまけいた)は座り込んでいた。
「ごめんけいちゃん!!待った?」
「全然待ってないよ。こっちこそごめんね。買い物中だったのに」
「あれ?私そんな事言ったっけ?」
律は見られていたのではないかと言う不安と共に少し恐怖を感じていた。
「いや、店内アナウンスとか安売りを知らせるベルの音とかが聞こえたからそう思っただけ。にしてもこの時間にスーパーって遅すぎじゃない??何してたの??」
律は朝から学内で新入部員募集のビラを配り、ライブをして、部室にて長時間、新入部員を待っていたことを簡潔に説明した。
「へえ、軽音・・・ね。まあ何にしてもこんな遅くに女の子が一人で出歩いちゃダメだよ。律は可愛いんだから、いつどこで襲われるかわかったもんじゃない」
「お、おぉう・・・ごめんて」
少し恥ずかしそうな律に対して啓太は不思議そうな顔をした。
「夜遅くなりそうなら、なるべく複数人で帰るんだよ。そっちの方が安全だし」
「わかった。でもあんまこの辺に友達いないんだよね。下宿生の大半が駅近くのマンションに住んでるからこっち逆方面だし…」
「このアパートとかに誰かいないの??律みたいにお金に困った学生とか」
「お金に困った学生いうな」
軽いチョップで啓太にツッコミを入れる
「まあいるっちゃあいるんだけどねー。軽音部の先輩が…」
「なんだ、先輩がいるんじゃん。なら安心した、遅くなったらその人と一緒に帰ってくればいいよ」
完全に安心したと言わんばかりの満面の笑みを浮かべる啓太。しかし律は少々の不安とともに申し訳なさそうに言う。
「でも、男の先輩なんだよね…」
しばしの沈黙…
啓太の顔からは笑みが消え目を見開いて律の目をまっすぐ見ている。
恐怖、恐怖、恐怖。
何をされるかわからない、そんな不安と恐怖が律を襲った。
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