第1章

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慣れたシチュエーション。聞き慣れた台詞。啓太は何かあると必ずこうして会いに来ては律を抱きしめ癒しとやらを求めてくる。 本当のところ律はこの啓太の行動に飽きていた。『あぁまた来たか…』と思うだけで何か特別な感情が湧き上がってくるわでも無い。ただ、『求められている』『必要とされている』という事実が嬉しかった。 抱きついた啓太の頭を撫でながら彼の泣き声を聞く、しばらくそんな状態が続いた。 「ねえ啓太。悲しい事って何があったの??私でよければ話だけでも聞くよ??」 「友達だと思ってたやつに裏切られた…」 鼻声で無理やり絞り出したような声で答える啓太。 「そっか、それは辛いね」 何も言葉が見当たらない。 ただこうして抱きしめて撫でる事しかしない。 律は悩んでいた。一緒にいるだけで楽しくてドキドキしちゃう先輩か、何かあるたびにいつも求めてくれる彼氏か。 二人ともという選択肢はない。 うまく嘘を吐く自信がなったし、先輩には嘘は通じないだろう。 その悩みを見透かしたように啓太はぐしゃぐしゃの顔を上げ 「律は俺を裏切らないよね?」 鼻声の情けない声だったが、確かに律を求めている。律だけを見ている。そんな純粋な目に見えた。 「大丈夫だよ。私はあなたを裏切ったりしないし、見捨てないから」 彼のそんな眼を見て、長い間忘れていた愛情を思い出したようだった。今見えているものを大切にしよう、要求に答えよう、愛してくれる人を愛そうと、律はそう決断した。 「啓太、今夜は私がリードするね。こういうのあんまり慣れてないけど…大丈夫」 明かりを消して月明かりが照らすベッドの上。二人は一つになり、お互いの愛を確かめ合う。愛を行為に込め、体で感じる。 とても優しくとても熱い夜だった。
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