流転3

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恰幅の良いおばちゃん… 「うちの旦那の奢りさね。  食ってやってくんな」 あや、女将さんっすか… 「頂きます!」 そう告げて、ワクワクしながら受け取ったんだが… ワクワク? へっ? ちょっと分厚いが、普通のステーキ? いや、脂身が少ない感じではある。 旨そうに焼けてはいる… だが、なんの変哲も無いステーキ。 なんぞ、これ? 思わず、シンさんを見る、俺。 シンさん、ニヤリと笑って… 「此処の名物の1つだ。  まぁ、食ってみな」 さいですか? 再び、フォークで押さえ… 押さ、押さ、ええぇ~っ! フォークが、ミルミル、埋まるよ、肉の中。 何、これ!? ナイフで… いやね… 力を入れなくても、スッと切れるんだよ。 切れ味鋭いナイフだなぁ~ えっ、違う! わーとるわい! 切り取って… 口へ。 モグモグ、モグってな。 もうね、なんて表現して良いのやら… 違う食感の肉。 違う味わいの肉。 それを一度に口の中。 しかも、見事に調和して、口の中でオーケストラ。 主張しながらも協調。 もうね。 これが本当の口福、口幸です。 「スゲェ…」 もぅね… 他には表現がね。 ボキャブラリ狭いんっす、俺。 「凄い…か。  そうだろうな。  他の表現など、思い付かんか…」 納得のシンさん。 「これ…  なんの肉っすか?」 思わずね。 「いや、俺に訊かれてもなぁ」 困り顔。 「どうやったかは秘密だがな。  牛、豚、馬、羊、兎、鴨、家鴨、鶏…  複数の肉のあらゆる部位を削ぎ切りにしてな。  適切な並びで重ねて作った肉だ。  筋や脂身を除去し、良い所だけ合わせてから圧縮して張り合わせてある。  肉屋のダチと共同開発した肉でな。  枚数限定のオリジナルでぇい。  ちと、高いが…  一度食ったヤツのリピート率は最高よ!  みんな、コイツを食う為に、金を貯めてから来るかんよ」 そう言って笑う、オヤジさん。 って、嵌めたなっ! うぬれっ! 俺も、リピーターになるしかねーじゃんかっ! だって… 美味過ぎんだよ、これぇぇぇっ!
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