1009人が本棚に入れています
本棚に追加
俺はデニムの後ろポケットから長財布を出した。
「いらない。ビール一杯しか飲んでないしね。菜々子、今晩離してもらえないんじゃない?」
「当然じゃんか」
俺はこうやって求める。菜々子の心を。その証である菜々子の肌を。
何度も。何度も。何度も。
東京湾のベイエリア。
水面にきらきらと街の灯りが映っているはずの海沿いの道を、握った菜々子の細い指の感触だけを感じて俺は歩き始めた。
俺の意識に景色はなかった。あるのは菜々子の指の感触だけだった。
ひとつの建物の前で立ち止まる。
最初のコメントを投稿しよう!