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菜々子が俺の背中に頬を押しつけ、後ろから両手を俺の腹にまわした。
「菜々子……もうバカだな。まだ小学生だぞ? 小五とかたぶんそんくらいだぞ? そんな子にヤキモチ焼くのか?」
「……違うけど」
「じゃ何?」
「……」
俺はゆっくり菜々子の手を掴んで離し、身体を回転させ、彼女のほうを向くとその細い身体を力いっぱい抱きしめた。
そうか。菜々子も、俺の背中に不安を感じるのか。
きっとまだまだ俺たちは恋愛の途中なんだ。
お互いが、お互いにとってもっともっと絶対の存在になりたいと、同じようにあがいている。
今は、俺だけの圧倒的な片思いじゃないと、そう信じていいんだよな? 菜々子。
菜々子のさらさらした髪を何度も丁寧になでながら、自然に言葉が漏れる。
「お前以外の女は、もう俺には目に入らない」
「わたしもだよ、ナツ」
赤い満月が、外階段二階建てアパートの前のじゃり道の上、いつまでも抱き合う俺たちを見つめ続けた。
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