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……その時僕が咄嗟に思いついた策は、博打だった。
タイムリミットは、一秒あるか無いか。僕は、腰についている一つの、紫陽花色に染まった鶏卵並の大きさのボール──通称『罠玉』を右手に持って身体のアウトサイドに払い投げるモーションに即座に入り、最早肌を焼かんばかりに紙一重まで迫る一つ目の紫炎の剣に即座に投擲。
用途は本来のものではないが、気にしている暇は無い。
極度の緊張状態から自身を疑いかけてその行方を目で追いたくなるが、ダメだ。余裕は無い。最早、反射にも値する速度で僕は真上に跳躍……バリバリっと何かせめぎ合う音が聞こえ、僕は『罠玉』の直撃を無意識に確信した。
後は、博打の結果が待ち受ける……刀を鞘にしまいつつ倒木を越えて、その眼下、時が何倍にも凝縮された空間の中で、僕は敵の姿を再見した。インジゴブルーとバイオレットの混色の様な鎧に全身を覆われた、不気味な戦士……その両手から迸り続けるはずの紫炎は、たった今途切れた所だった。
博打は、成功した。敵は、罠玉の『正の力』の抵抗を、僕への直撃と錯覚したのだ。
「──っぉおおおあああっ!!」
静かに切りつけられればいいのだが、こうでも叫ばないと相手の禍々しさに気圧されてしまう気がして、僕はかつてない絶叫を響かせて左腰の刀を、抜刀するモーションに空中で入る。
反応した鎧の戦士は僕を見ると、慌てて紫炎を発動しようとするが……僕の方が速い。
鞘の中に僕の体の『正の力』を流し込み、刀に付着させた────『紅電一閃の型』。
普段の五倍の遠間からの抜刀切りは、まさに淡い桜色の雪をその刀身から散らせ、真紅の斬撃の波動が、鎧の戦士の胴を両断した。
どっと戦士の胴の切断面から、黒青い霧が溢れ出す。
「っ……!」
すぐに俺は、腰から『罠玉』を一つそこに投げ込んだ。すると、青い霧達はそこに恐ろしく群がり、バチバチと『正の力』を『負の力』が激しく侵食しようとする音が五月蝿く響いた。そして鎧は、そのお陰様で抜け殻になった。
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