第1章 心の兵団

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 ***  ──ここは、どこだろうか。暗くて何も見えない。それに、動けない。それでも僕はまるで天使の羽にくるまれているような心地よさを覚える。……実は、何度となくここには来ている。しかし、最初からまるでこの場所を知っているように僕は落ち着いていた。五年前から、毎日の夜に見る……いや、感じる夢だった。  ちなみに『もの』が夢を見ることは僕が初めての例であり、やはり異常であるのだ。  さあ、今日はどんな『感情』に僕は支配されるというのだろうか。  そして────それは来た。  腹が煮えて、瞼に力が加わり、手が震え…………あぁ、怒りだなこれは。  僕は誰に怒っているのだろう、普段より一層激しく、何を求めているのだろう……そして僕は歪んだ喜びに満たされるのだ。感情によって支配される情熱、自由、それらは人間のものであって、恨みに満ちた怒りはこの心情世界の負を形成する。なんて、変で罰当たりな夢なのだろう。僕らは使命に、神に支配されるべき存在だというのに。  僕は、負の力を今、感じているのだ。我がものとして。これほどに新鮮味に溢れ、好奇心を掻き立てる面白いものが、僕を支配する。僕は、叫ぶ。何もかも壊したくなって、叫ぶ────そうだ、壊れてしまえ、死ね、死ね、死ね死ね死ねっ、死んでしまえ。  感情の高ぶりが、あるはずも無い横隔膜を痙攣させ、出るはずも無い涙をとめどなく熱く溢れさせてくれた。  その爆発が鎮火すると、今度は鬱が訪れる。  恥じ、恨み、憎み、貶め、自らも貶め、堕落の先に答えを手探りで探す……何を僕は探しているのだろう。わからないけど僕は辛く、気力も無くしている……。  ………………ジロー、そう僕の名を呼ぶ声が聞こえる。
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