第1章 心の兵団

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 *** 『心の兵団』の団員達が、『正の恒核』の前に多数集まっているのが見えた。何やら騒がしい。  屋根から広場に降り立つ。すると、沢山いる『もの』のうち、ひとつがこちらに振り返り、そこから波のようにこちらを皆が振り返り、暖かで包容力のある空間に不釣り合いな冷たい静けさが、辺りを包んだ。  ────知ってるよ。納得いかないんだよな、皆。  僕は、一つだけ憂いからの溜息をつくと、顔をあげて胸を張り、『もの』達の向こうにあるはずの『正の恒核』を透視するが如く見つめるようにして、歩く。ただ、真っ直ぐ。それだけで、自然と道は開け……僕は、『正の恒核』の前にもうすぐ辿り着く。  僕は誰一人とも、視線を合わせることはなかった。どいつもこいつも同じ目だ。だから合わせる価値もなければ、それで僕が彼らの内一人を萎縮させ傷つける道理も存在しない。  みんな、僕を憎んでいるのだった。そして、僕は彼らをつまらない奴らだと呆れているのであった。 『もの』は、悪く言えば機械に等しい存在である。先天的な『もの』の本能としての使命と誇りと鉄則(例えれば武士道が近い)があり、主君たる創造主・山崎ナオトに絶対の忠誠を誓っている。しかし、それに反し、自らの生の自由を謳歌し、この世界の命を尊ぶ僕のあまりに異常な僕の性質。だが、縦棒ゲージで例えれば最底辺の性質に関わらず、戦闘力においては『心の兵団』の頂点に君臨する……。嫌な言葉だが、妬まれて当然と言えよう。  そして、僕は固定観念に縛られて井の中で正義を振りかざすことを良しとし、思考力という恩恵を賜りながらも理解の努力を怠りそれを無下にし、結局何も自らについて理解できない彼らに呆れ、哀れんでさえもいて、要に彼らをひどく見下していたのだった。  まるで水と油だ。僕らは、僕の自我が突如目覚めた五年前から、決して相容れないものになってしまったのだった。  人間界において、キリスト教の十字軍、イスラム教の聖戦…………宗教戦争というものが起こる最も根本的理由に近いものが、そこにあるだろう。
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