第1章

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曖昧なことが嫌いだ。 世の中のことが。 色々な動きが。 世の中の人誰もかれもが。 なんだか最近鬱陶しくてしょうがない。 やる気はある。 十二分にある。 でも仕事が決まらない。 七瀬まどかはため息をつきながら窓の外のよく晴れた空を眺める。 この空の下に、職を求めて彷徨っている人はどれくらいいるんだろう。 ていうか一体どれくらいの人が今生きてて幸せだって考えてるんだろう。 飲みかけの缶コーヒーに口をつけて中をずずずと飲む。 暑い日に熱いコーヒーを飲むとなんとなく心が落ち着く。 なんというか、反骨精神というか。 私は暑いけど熱い物飲んでますよ!ていうか。 よくわかんないけど。 まどかは履歴書を1枚1枚見比べてどこに自分が落とされる理由があるのかを 真剣に考える。 「顔じゃない?」 自分の中のもう1人の自分が問いかけてくる。 「そうかもね」 まどかはもう1人の自分にそう答える。 鏡はあまりみないようにしている。 「目鼻立ちは悪くないんだけど、歯だね」 大きく突き出した自分の2本の前歯を見てまどかは泣きたくなる。 「マスクで隠せばいいじゃん。証明写真、マスクつければ?」 「わわちんかよ。ないし」 「でもそんな顔じゃどこも取ってくれないぜ?」 「整形は?」 「そんな金ないし」 「じゃあ抜いちゃえば?」 「間抜け面になるだけだよ」 外では蝉の鳴き声が空しく響き渡る。 春と冬はまだしのげる。 秋も、しのげる。 でも夏はダメだ。 あの太陽の下マスクをしていたら絶対不審者だと思われてしまう。 かしゃ。 自分の目のアップを写真にとって大手SNSトーキンにアップする。 「お、今日も可愛いね。みぃたん!」 さっそくリプライが飛んでくる。 「女神!あざーす! 「おはよ。今日も可愛いね」 ・・・・・。 なんとなく心が満たされる。 目の前の問題は何も解決していないのに、 少しどうでもいい気分になってくるのはなぜだろう。 人は大切な決断をするとき、絶対間違えちゃいけないってパパは 言っていたけれど、なんでだめなんだろう。 間違えたって、いいじゃないか。 違う人生を歩むことになってもそれは自分の責任で、 それを誰かに転嫁しない限りは、 好きにやっていいんじゃないだろうか。 履歴書に貼り付けた自分の顔をまじまじと見る。 本当に、この歯さえなんとかなったら なんていい人生なんだろう。
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