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上陸
船の中で一夜を過ごした。眠るにはいささか音と振動が激しく向くものでは無かったが、テンションの高さからか全く苦にはならなかった。
肌寒さの残る船内、放送と共に三人で船の踊り場に待機する。
遠征の学生らしき人、田舎に帰る人、仕事で向かう人、旅行の様子の老夫婦。
どの顔も楽しそうである。旅行と思えばきっと楽しさで心躍ると思った。
だが、目的はあくまで父親の墓参りである。人生の半分を共に過ごした父。
しかし、弟にとっては最早、薄らと覚えている程度のそんな曖昧な父。
憶えていた所で、良い思い出が多い訳では無い。私の胸中の不可思議な葛藤のしこりが取れぬまま福岡の新門司港に辿り着いた。
船を降りるまで、三人で他愛も無い話をしていた。それは、この時はまだ”仕方ない行事の一環”と感じていた為であった。
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