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「働かざる者、食うべからズ。さすがのアナタも、これくらい知てるね」
「は、働いてはいるだろ。…コンビニバイト、だけど」
念のため主張しておくと、俺はニートではない。フリーターだ。駅前のコンビニで様々な時間帯に入るアルバイトに従事しており、そのため生活はかなり不規則である。
「でも、その毎日書いてるの…シャオシュオ…小説。アナタ、小説家なろうとしてるカ?」
「前からそう言ってるだろ」
そう言うと金さんは、大きくため息をつく。
「な、なんだよ金さん。今日はやけにつっかかってくるな」
「…アナタ、そろそろ現実見たほうがイイ。アナタ、そう言ってもう何年経ツ?」
「えっ?…えーと、そろそろ四年目、かな」
「書いては落チ、書いては落チ…。そろそろ気づいても良いんじゃないカ、もう諦めた方が良いッテ。まだ二十代の内ニ、求職した方ガ」
「金さん!」
俺は気づくと、その事務机の天板を平手で叩いていた。ペンが跳ね、机の上で音を立てる。
「…わかってる。わかってるけど、これは俺の問題なんだ。……こればかりは、譲るわけにはいかないんだ。俺は絶対、小説家になる。…いや、ならなきゃいけない使命があるんだ」
「どの道、ワタシには理解できなさそうな話ね。わかった、もう寝るヨ…。ただ、考え直した方が良いと、ワタシ何度でも言うね。ワンアン」
そう言って金さんは諦めた顔つきで、もう何週間も敷きっぱなしになっている布団に潜り込んで寝息を立てた。もしかすると今日の業務はいつもよりも忙しく、それでイラついて当たられたのかもしれない。普段の金さんはもっと温厚で口数も少ないはずなのだ。
「……いや、違うな」
俺はもちろん、金さんに言われたことに反論できないことはわかっていた。ろくに定職に就かないまま無為にアルバイトを続け、それでも書き物をやめない毎日。そんなクズみたいな生き方など世間様に顔向けできないなんてことは勿論よくわかっていた。
だが、それでも。それでも俺はこの作家デビューに向けて燃え盛る気持ちを抑えることができない。なんとしてもその夢を譲る訳にはいかない、確固たる根拠があるのだ。…だが、それを現実的な金さんに打ち明けた所で理解されないのはわかっているので打ち明ける気は毛頭なかった。文化が違えば考え方も違う。それを知っているからこそ、俺はその理由を抱え込むしかなかったのである。
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