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仕事を頂戴【完】
「王様さぁ」
甘い甘い、蠱惑的な声が寝室に響く。
肌触りの良いキングサイズのベッドの上に、二人の男が横になっていた。
「何だ、ユサ」
それに返すのは凍てついた、とても鋭く冷たい声。
この国『ハゼル』を統べる若き王である。
それに臆することなく、ユサと呼ばれた男はごく自然に腕を男の首に絡めた。
形の良い鼻が、男の耳すれすれに近付く。
「最近俺に仕事くれなくなぁい?俺そろそろイキたいなぁ」
「俺といるのは退屈か」
「違うよーそんなんじゃなくてさー」
「なら何だ」
「俺、そろそろヤらいと腕が鈍りそーなの」
無表情で黙り混む王を、ユサは甘えをのせた瞳で見つめた。
琥珀の瞳がキラリと光る。
「王様はもう殺して欲しい人いなくなっちゃったの?最近ぜんぜんお仕事くれないしー。なら俺もう必要ないよね?コレ、外してよぉ」
コレと言って足を振ると、ジャラリと場違いな音がその場に響いた。
細く雪のように真っ白な足首に、無骨な銀の鎖が巻き付き己を主張する。
「俺が王様を殺し損ねて、王様が俺を殺さないかわりに、安く王様からの仕事を受けたげるってのが俺らの契約でしょ?」
「そうだ」
「王様は偉いから、殺して欲しい人たくさんいると思ったのに。俺まだ5人しか殺してないんだけどー?」
「そうだな」
「何か鎖付けられるしー王様はやっぱり俺を殺したいの?」
「違う」
「じゃあ何?俺さっさと殺して稼がないと。弟もいるし、王様と違って俺貧乏だからさ」
黙り混む王に、ユサは苛々と爪を噛んだ。
「俺は暗殺者何だよ?人を殺さないといけないの!たった一つの仕事を失敗するだけで、依頼率がめちゃくちゃ下がるの!」
「分かっている」
「だったら仕事を頂戴よ!俺が暗殺辞めたって噂流れたらどうしてくれるの!?それともなに、殺して欲しい人いなくなったから俺にもう殺すなって?国を乱すなって?ふざけないでよ!!」
怒鳴るユサに王は静かに口を開いた。
「嫌なんだ」
「…何が」
「お前に殺しをさせるのが」
「っは…王様バカ?ソレ、俺に死ねっていってるのと同じだよ?」
「知ってる」
「王様は俺に死んで欲しいの?飢えて死ねって!?そりゃ確かに殺そうとしたけど仕事だっ「俺と」…なに」
「………俺と、暮らせば良いだろ」
キョトンとユサが首を傾げた。
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