鬼の面

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「泣き虫、万里子なんだからな」 ケケケと、口元を笑わせて、大柄な身体に伸ばした髪の毛を後ろでまとめTシャツからのびる腕は日焼けして逞しい。缶ビール片手に意地悪を言ったのは、天音千春(アマネ、チハル)女みたいな名前だが男だ。 「なっ!? 何を言ってるのよ。そんなの昔のことでしょう。というより、千春くんはどこを見ているのよ」 と万里子があからさまに大きく膨らんだ胸を覆い隠して涙目になりながら睨む、小学生の頃はちょっとしたことで泣きじゃくる泣き虫で、俺の後ろを雛鳥みたいによちよちついてくるので、雛鳥万里子だったり、泣き虫万里子だと言われていたものだ。中学生になってからは何かの転機があったのか、真逆の仕切り屋になってしまった。俺からしたら小うるさいだけなんだけどな。あと、泣き虫なのも変わっていない人前で泣かなくなっただけで、でも、まぁふと思うと俺らも二十歳、大人になったんだなぁーと感慨深い気持ちになる。そう思っていると、俺の隣に座る女の子がクスリと笑う。 「どうしたんだよ、辰美」 「いや、玉城くんが何考えてるんだろうなーと思って」 立場辰美(タチバ、タツミ)おしとやかでおとなしい女の子というイメージがぴったりな女の子だ。事実、日差しが苦手で読書が好きな文学少女、俺達、三人とはあきらかに趣味が違うのに、なんだかんだいって仲良くやれている。狭い村なんだからということもあるんだけど、不思議だ。 「考えてるって、エロいことじゃないぞ」 「本当? 万里子の胸を見てたでしょ?」 「見てねーよ。つーか、辰美だって一緒に居たんだからわかるだろ」 辰美の裸は、なんというか真っ白だった。日差しを避けているためだろうが、思わず見とれてしまうほどだった。華奢な身体、ブンブンと首を振る。 「もしかして、私の裸、見てた?」 クスクスと辰美が笑う、酒のせいかもしくは別の理由か辰美の顔は赤い、同じように俺も赤くなった。 「みっ、見てねー、見てねーから、あと、辰美はもっと恥じらいがあるといいと思う」 羞恥に耐えていると、万里子にじーっと睨みつけられ、千春がまたもケタケタと笑い、辰美が缶ビールをプシュッと開けてコップに注いでくれたので、俺はそれを一気に飲み干した。あーと叫びたくなった。 「そういやー、お前ら、今後どうすんの? この村に残るの?」 と千春が唐突に言った。残るとは、この村のことだ。
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