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村のしきたりで、二十歳になるまでは村に居なければならない。そのため俺達もこの村に小学校、中学校は村にあったが、高校だけは村との往復だった。二十歳になってからはもう自由だ。都会に上京するなり、村に残るなり自由なのだ。その意味ではこの儀式もそれに関係しているのかもしれない。
「あー、俺は残るよ、親も年寄りだし、跡取りが欲しいって言ってたし、都会に出るよりもこっちでのんびり、農業でもやってたい」
それは前々から決めていたことだ。正直、高校生にはならず、中学生を卒業してからすぐにと決めていたが、親には高校だけでも通っておけと言われ、今に至る。なにより、俺には都会のギスギスとした急かすような雰囲気があまり好きになれない。
「辰美は、教師なんだっけ?」
話のついでに、聞いてみた。万里子は小学生の教師になるらしい、万里子が教師、ガキ共にからかわれて涙目になってる姿が容易に想像できてちょっと笑えてくる。
「ええ、そうよ」
そっけなく答え、千春くんは? と、千春に問いかける。
「俺も万里子と同じだな。まぁ、何かの夢があるわけじゃないけど、それ関係の学校に通うつもりだよ。最後は辰美な」
「私も、千春くんと同じで決めてはいないけど、できれば旅行に出たい」
「旅行?」
「うん、私達って村育ちだから、知らないことばっかりだし、いろんなことを知りたいの。本で得た知識だけじゃなくて、自分の目で見てみたい」
「へー、いいじゃん、なんか考古学者みてーでさ、カッコイいじゃん。目標は世界一周、とかさ」
「それは、大げさだよ。それにどうなるかもわかんないのに」
「大げさなもんか、夢はデッカいほうがいいんだぜ。そりゃ苦労もするだろうけどさ、その分、やり遂げたときの嬉しさもおんなじくらいに大きいもんさ。この村から有名人がなんてなったら、自慢できるぜ。有名人の辰美さんってな」
からかい半分に俺が言い、辰美がクスクスと笑う。なぜかそれを万里子が不満げに見つめていたが何も言ってこないので無視、
「でも、残るのは俺だけかよ」
とゴロンと寝転がる。囲炉裏の近くにいるせいかほんのりと暖かい、囲炉裏は調理だったり、暖房だったりとさまざまな用途がある。名前もいろいろあって、ヒジロ、ユル、ユルイ、ユリカ、イナカ、ヘンナカ、エンナカ、イリリ、イレ、シタジロ、スブト、ジリュなどだ。並べてみると変な呪文みたいだ。辰美の受け売りだけど。
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