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そうなると辰美の豆知識も聞けなくなるだと思うとムズムズとした気持ちになる。万里子も教師なれば忙しくなるだろうし、千春も同じだ。俺の呟きには誰も答えなくて、酒もちょうどよく回ってきて誰もがウトウトとし始めた。寝息をたてはじめた頃、
すーっと部屋の空気が冷たくなった。囲炉裏の火も消えていないが、すこし肌寒いどうなってんだろうなと、動こうとしたけれど、身体を糸でグルグルに巻きつけたみたいに動かなくなった。これが金縛り? とか考える余裕もない。動かないことの焦りで半ばパニックに陥りそうになる。動け、動けと思うが動かない。その時だった、トンッと白い袴の衣装に身を包んだ鬼の面を被った変な奴が床に立つ、誰かの悪戯ではない、万里子も、辰美も、千春もちゃんといる。なら、村民の誰かかと思うが、しきたりを重んじるこの村でおふざけをするやつなんていない。ただ、その立ち姿はバー様に似ていたが、確認はできそうもない。
鬼の面を被ったそいつは、俺達をグルグルと歩き回りながら、時折、グーッと顔を近寄せて俺の時、思わず叫びそうになった。それが何度かやった後、辰美の前に立ち止まった、鬼の面をカタカタと揺らしながらヒョイヒョイっと手を動かす。それに呼応するように辰美が身体を起こす。鬼の面がヒョイヒョイと手を動かし、それに辰美が着いていく。
行くなっ!! と、叫びそうなるが声が出ない。身体が動かずそのもどかしさに怒りが頂点に達しそうになった頃、バネ仕掛けのように身体が動いた。俺はドダドタと床を蹴り、辰美と鬼の面が歩いていったほうを突っ走る。外に飛び出し、
「辰美ぃ!! 辰美!! どこだ!? どこだよ、辰美!!」
はっはっはっと息が詰まる、喉が裂けるほどに叫んだ。辰美どこにいるんだよ。どれくらい走っただろう、村外れに来た頃、鬼の面に連れられていく辰美を発見した。安堵と怒りが一斉に吹き出し、俺は鬼の面を蹴り飛ばして、辰美の前に立ちふさがった。辰美は目を見開いたままこちらを見ていない、真っ黒な瞳には一点を見つめたままだ、微動だにしない。
「辰美?」
どうしたんだよと聞く前に、背後から包丁が振り下ろされた。肩を少し掠り血が吹き出す。振り返るとそこには出刃包丁を構えた鬼の面がそこに立っていた。
「何だよ、テメー、返せとでも言いたいのかよ」
辰美を庇い、睨みつけた。きらめく出刃包丁がスーッと動く。
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