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ババァーと叫ぶと、バー様がケタケタと笑った。あの犬はたぶん、土地神様なんだろうなと思いながら俺はバー様を追いかけた。
「まぁ、あれだな、寂しくなるけれど、時々でいいから帰って来いよ」
とだけ言う。しめっぽいのは大嫌いだ。だから、泣きそうなのは傷口が痛いでごまかす。
「おうよ。そっちも頑張れよ。俺も頑張るからな」
「ふ、ふんっ、あんたと別れられると思うとせいせいするわ」
「とか、言ってるけど、一人になってからわんわん泣いてたんだぜ?」
「知ってる。泣き虫万里子だものな」
泣いてないわよと涙目で万里子が叫ぶが、俺と千春が顔を見合わせてニシシと笑い合う。そして、
「じゃ、行ってくるね」
「お、おう」
辰美はあの時のことは何も覚えていなかった。俺も腕の怪我は酔った勢いで転けただけと言ってあるので真実は言っていない。俺の気持ちも、辰美はここで別れればとうぶんは帰ってこられい、もしくはずっと、これが最後だと思うと言葉が出てこない。行くなとは言えない。好きだとも言えない。そう言えば辰美の足枷になるからだ。
「手紙、書くね。いっぱい」
「おう」
ムズムズとする。ムズムズする。
「しゃらくせーな」
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