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ボロボロになった私の心と引き換えに手にしたのは、たった5万円。
はした金だとしても、
あの時のお金は私の身になり、
裏切ったり騙したりなんてしなかった。
身体という授業料で判ったのは、
”愛”とか”恋”なんて
何も残らないってこと。
(―――――誰か… )
いつの間にか液晶の消えたスマホに触れて、
電話帳の中の星マークを開く。
それからすぐにレストランを辞め、
キャバクラに勤めた。
何年かしてクラブに移り、
重ねた”経験”が私を綺麗にして、
今は通り過ぎる男が振り返るほど。
五つ星マークから順に、
一つ星マークまでのアドレスを順に追いながら思う。
( この時間で捕まるのは…この人だけか )
小さく嘆息すると、星ひとつの欄から、選んだアドレスに発信ボタンを押す。
あの時から恋や愛は、ただのツールでしかない。
何度目かのコール音の後、
少し上気した低い声が耳を通り抜ける。
「――――もしもし? …今から逢えない?」
そうやって、私は細く弱い、甘い声で囁いた。
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