翻弄

40/42
10073人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
確かに場末のホテルには絶対あるそれは このホテルには常備されてないかもしれないけれど 心配なら、あなたが持っていなくても 今私の鞄の中に入って―――― (――――だめだ ) そう口を開きかけたけれど、 それを告げるのは まだこの段階では微妙過ぎる。 固まった視界の中で 彼は拾い上げたそれに袖を通すと 親指で自分の唇を拭った。 (なに? この男…) 僅かについた私の痕に目を落としつつ 「今日はここに泊まっていって  もう遅いし」 言いながらおもむろにこちらに視線を戻す。 一瞬だけ交わった視線はすぐに外れて、 奥へと移る。 (――――ちょ、っと ) 伸ばされた手がドアノブを握った時、 堪らず私は声をあげた。 「………渡瀬さん…っ」
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!