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「ちょっと大変な事思いだしちゃって………」 そ?なんて軽く言いながら美紀さんは何事も無かったように立ち上がった。 彼女はさっぱりした性格で こんな時、根掘り葉掘り聞くなんて野暮な事はしない。 あたしが勤め始めた頃もそうだったなぁ と、どこかで冷静な自分もいたりして。 でも、何で今頃思い出すかなぁ。昨日の若先生の事なんて。 あたしは診察室に続く出窓にカルテを差し入れてそのまま控え室に向かう。 水、飲もう。 冷蔵庫の上に置いてある、蓋に『蜜』と書かれたペットボトルを手に取り水をゴクゴク喉に流し入れた。 「はぁっ」 息を吐ききって呼吸を整える。 だけど、その呼吸はまた乱れる事になった。 「ばか蜜、何キョドってんの?」 控え室の扉が開き、あの低く響く声があたしの後ろから聞こえてくる。 「わ、若先生。」 あたしは少し後退っていた。 目の前に立つ大きな悪魔は眼を細め 形のいい唇の端をクッと上げてあたしに近付いてきた。
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