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「…あの、おっしゃった意味がよく?」 アルコールが回ってきた頭だから、聞き間違えたかなぁ。 「そのまんまの意味だけど?」 妖しく笑うその顔はまさに、妖艶、という言葉がピッタリで。 お店のダークな照明が彼の妖しさを引き立てているかのよう。 「ごめん、って、あれ?」 そんな時に不釣り合いな大武先生の少し陽気な声。 「あっ、お電話、大丈夫だったんですか?」 あたしはびっくりして大武先生に向き直った。 大武先生は携帯をシャツのポケットにしまいながらあたしの左隣に座る。 そして一瞬、間をあけてから大丈夫、と首を横にふった。 その時に見せた困ったような笑顔になんとも言えない何かがつっかえたような気がした。 それからは特になんて事なくて、他愛もない話で盛り上がる事少々。 お店を出る頃にはあたしは少し出来上がった酔っぱらい風だった。 だから、ついついさっきの若先生の言葉なんてこれっぽっちも気にしてなかったんだ。
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