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ここで働く前は別の病院で働いていた。 大学を卒業してすぐに入ったところだった。 2年間であっという間に心も体もボロボロになってしまったあたしに、手を差し伸べてくれたのがパパ先生だった。 前の病院での事はあんまり思い出したくはないけど………… 「ふぅ」 「ん?アクビの次はため息か」 美紀さんのニヤリともとれる微笑みに あたしはまた、えへっと肩をすくめてみせた。 スーッと開く自動ドア、顔馴染みの患者さん二人と若先生が、一緒に入って来た。 「坊っちゃんも言うね~」 「早く落ち着いて、院長先生に孫でも抱かせてやんなよ」 「そうですね、そのうち考えときます」 爽やかに笑うその顔に、昨日のような黒さは微塵もない。 ちっ、ネコっ被りめ。 あたしは思わず顔を背けた。 みんなみんなヤツの本性を知らないんだ。 そこで、あたしは思い出す。 あっ、と気付いた時にはもう遅かった。
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