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大きく息を吐きながら目の前の鏡に映った自分を見る。
あの頃もよくトイレでこうやってたっけなぁ。
もう昔の事、と思えるようになった今でも出来ればあの頃の事は思い出したくなかった。
ひと心地ついてテーブルに戻ってみると三浦さんと大武先生が帰り支度をしているみたいだった。
「あ、折原さん、あたし先に帰るねー」
三浦さんはここに来て小一時間くらいだったが、少し頬が赤く染まっていた。
「あ、はい」
あたしは慌てて頷いた。
「大丈夫だった?ごめんね、折原さん」
大武先生がコートを羽織ながらあたしに近づいた。
「この埋め合わせはまた今度」
若先生と三浦さんに背中を向けて真っ直ぐこっちに向いていた大武先生。
少し小声だったけど、確かにそう、聞こえた。
店内は週末という事もあり、それなりの喧騒。
多分、後ろの二人には届いていない。
ニコリと笑った大武先生にも、慌てて頭を下げた。
「いぇ、こちらこそありがとうございました」
頭を上げると三浦さんの視線がこちらに。
無表情のそれはなんだか居心地が悪かった。
「早く帰ろ、大武さん」
三浦さんは軽く手をふって先にお店から出て行った。
大武先生も後に続く。
大武さん、か。
あたしは声に出さずに呟いていた。
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