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パパ先生は面接の時、そんな薄っぺらな履歴書について何も尋ねては来なかった。 物腰柔らかな優しい先生。 こんな履歴じゃ雇っては貰えないだろうと思っていたのに。 その日の夜に採用の連絡が来た。 あたしは救われたと思う反面、書いてはいない、知らせてはいない事実がある事に後ろめたさを感じ始める。 受付事務として働き始めて どうですか。 慣れましたか。 と聞かれる事はあっても余計な詮索は何もなかった。 働くうちにパパ先生の優しさや人柄、そしてここで働くみんなの暖かさにあたしの砕けた心身も修復を始める。 吉川医院で働く事が当たり前になって来た頃。 パパ先生は控え室であたしに声をかけてきた。 「折原さん、ちゃんと笑えるようになりましたね」 そう言ってあたしに微笑んだ。 その時の事を今でもハッキリ覚えている。 吉川医院に来て、一年がたった頃。 若先生が吉川医院に来るようになって呼吸器内科を新設した直ぐの事だった。 パパ先生はその後何事もなく控え室を出て行ったけど、あたしは暫くそこで泣き崩れていた。
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