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吉川医院の裏手にある駐車場に停められた若先生の車。
ここに来る前にちょうど事故現場を通って来たが、まだ警察と乗用車の運転手が現場検証をしているらしく、関係者が数人残っていた。
最近、助手席に乗る事への抵抗がやっと無くなってきたばかり。
でも、まだ少し遠慮の塊があるみたい。
「失礼します」
ほら、やっぱり。
乗るわよ、ってな感じで堂々とは乗れないなぁ。
電車で二駅の距離は道が空いていれば、車だとあっという間で。
到着したのは若先生のマンション。
「あ」
あたしが思わず口走った事に怪訝そうに振り返る。
「なに?」
「いえ、あたしの家じゃないなぁ、と思って」
あはは、と乾いた笑いを誤魔化しながら急いで車を降り、エレベーターに向かう若先生を慌てて追いかけた。
若先生の少し後ろに立ってエレベーターを待つ。
乗り込んだ途端にスッと手を引かれた。
バクン。
心臓が飛び出すんじゃないかと思って反対の手で胸を押さえる。
そんな事があり得る訳が無いのに、胸元から手を離せずにいると、ククッと笑う音が聞こえた。
「やっと捕まえて帰ってきたのに、お家に帰すわけないだろ」
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