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荷物を片付けて、ソファに近づくと、さっき若先生が持って来ていたらしいワインが。 グラスは二つ。 片方には既にワインが注がれていた。 ……あたしの分かな。 ワイン、いい匂いがする。 喉、渇いたなぁ。 ワインの味は分からないけど、きっといいワインなんだろうなぁ。でも、ワインをナイフで開けて飲むってどうよ。 コルクの抜きかたもあんまりよく分かんないし。 お酒は大好きだけど、ワインには抵抗があった。 しかも、赤ワインは特に。 自ら飲もうとは思わないし。 バッグの中からペットボトルを取り出して水を喉に流した。 程無く若先生が隣に来て、綺麗なグラスにワインを注ぐ。 赤紫色の液体が揺れる。 「どうぞ」 診察室で患者さんに、どうぞ掛けてください、と言うのを聞いた事があった。 それとおんなじだなぁ。 なんだか笑いそうになるのを堪えてソファに腰を下ろす。 赤ワインは苦手だ、と言いつつも折角だから、ワイン、飲んでみたかった。 っていうのが本音。 グラスを持って下から覗いて見ると、オレンジの光が混ざってさらに濃い赤紫になる。 少し口に含むと葡萄独特のコクのある香りが広がった。 「……」 うん、やっぱりあんまり得意ではないかも。 白ワインの方が飲めるなぁ。 「目が寄ってる」 あたしのすぐ隣に座った若先生が呟いた。
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