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カチャリ。 エンジンを停止させた音と、あたしの中のスイッチが押された音がハモった気がした。 「…はい」 荷物を持って車を出る。 泊まれる用意しておいで。 とまれるよういしておいで。 トマレルヨウイシテオイデ。 何回もリピートさせて言葉の意味を考えて。 泊まりは何泊ですか? ギュッと握りしめていたカギをなんの焦りからか鍵穴に差し込む前に落としてしまう。 「…落ちついてよ」 部屋に入り言われたように荷造りを始める。 とりあえず今日、明日の荷物を纏めて部屋を出た。 携帯の時計を見ると、間もなく日付の変わる時間。 車に乗り込んでも何の会話もなく、瞬く間に元の駐車場へ戻ってきた。 ライトの瞬きを再確認。 エレベーターの中はとても静かで、心臓の音が身体中に響き渡っているのが聞こえるんじゃないかというくらい。 滑らかに移動してゆく箱の中は一種の密室で、この中の緊張感に呼吸さえ支配されてしまう。 箱はピタリと止まり、デジタルの数字は点滅をして到着を知らせた。
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