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侵食された口腔での束の間の呪縛は、確かな柵(しがらみ)をあたしの身体に残して離れた。 唇の端をあげて 微笑む意地悪なその顔に 心臓を捕まれたまま。 職場でこんな事をするのは如何なものでしょうか。 そりゃあ、良くないに決まっていて。 そんな暗黙のルールも守れないあたしは社会人としては非常識。 「帰んぞ」 何事もなかったように 更衣室から出ていく後ろ姿に 捕まれた心臓が解放されて、いきなりドキドキと刻みだした。 キスひとつでこんなに眩んで あたしはこの先どうなるんだろう。 何もかもが良すぎて、ちょっとよく分からない。 ふー、と長く息を吐き出して 若先生を追いかけた。 控え室の電気を消して、通用口から外に出ると、若先生が待っていて、扉に施錠する。 また来年。 心の中で呟いて病院を後にした。 駐車場までの道のりをいつもと同じように無言で歩く。 若先生はあまり多くを語らないヒトで。 だけど欲しい言葉はちゃんとくれて、あたしはそれに縛られていた。 だからかもしれない。 明日が来るのが待ち遠しくて むずむずしていた。
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